まち歩きレポート

2018/3/3千住いえまち 『春のまち歩き(桃の節句偏)』

日時:2018年3月3日(土)
集合場所:2538キッチンデリコッペ(2538Kitchen DELIcoupe)
参加人数:一般参加者14名 いえまちスタッフ8名 計22名
参 加 費:1500円(おやつ、お土産、冊子“千住いえまち”付)

 2018年の春のまち歩き企画は、旧日光街道(以下旧道)を中心とした千住3丁目から5丁目のエリアを対象とする、いえまちのまち歩きではベーシック編ともいえるものですが、それにプラス、かねてより希望していた企画が加わって実現しました。
 それは出桁造りの商家の佇まいを今に伝えてくれている横山家、下村家で桃の節句の雛飾りを拝見する事です。
 企画の意図をお伝えし、ご相談したところ横山さんも下村さんもご協力してくださるとのお返事を頂き今企画が実現する運びとなりました。下村家には江戸末期の雛人形が引き継がれています。一方横山家には掛け軸に仕立てられた紙雛図がやはり大切に引継がれています。横山家の紙雛図は郷土博物館に寄託されており、修理修復がまだ完了していないとのことで一度断念をしたのですが、郷土博物館より良い機会だからと、変わりに狩野永祥(京狩野家第10代 1811~1886)の紙雛図を特別に横山家に展示して頂くことになりました。事前に博物館の学芸員の多田さんにお話しを伺いに行きました。現代では貴重な芸術品として扱われている掛け軸だけれど、昔は日常の生活の中で床の間などに飾られ、生活の中にあったものなので、その事を知ってもらえる良い機会としてくださいと声をかけて頂きました。
 そんな思いもつまった春のまち歩きです。

2538キッチンデリコッペの2階からスタート

出発に先立ってのショートレクチャー

 午後2時に2538キッチンデリコッペに集合です。
 まずは、千住の歴史や地勢のショートレクチャーをいえまちスタッフの佐々木から行いました。集合場所である2538キッチンデリコッペは元々化粧品店であった建物をビストロにリノベーションして2012年にオープンされました。その後「2538」のセントラルキッチンとなり、その場所を生かしてデリコッペとキッシュの専門店を2017年夏にオープン。現在では様々なメディアにも取り上げられ行列が出来る人気のお店です。

江戸後期の商家の佇まいを今に伝える「横山家」
 横山家8代目当主恵章様よりお話しを伺います
(右)横山家に設えられた 伝 狩野永祥 紙雛図

 いよいよ外に出てまち歩きの出発です。2班に分かれいえまちのスタッフと参加者の方で話をしながら、のんびり楽しく歩きました。
 まずデリコッペを出発し旧道に出て千住本町公園(たこ公園)で千住宿の地割の特徴を感じて頂き、長円寺を経由してさっそく横山家へ。
 横山家では先に触れた、紙雛図の掛軸を鑑賞し、8代目当主である恵章さんに1860年築の建物についてお話をして頂きました。さらに戊辰戦争の際に敗退する彰義隊が切りつけた柱傷や現存する土蔵の蔵の内部も見学させて頂きました。


 横山さんに一同お礼を申し上げて、横山家の向かいの絵馬屋の吉田家へ。東京に唯一残る手書きの絵馬屋さんです。
 先程見てきた、長円寺の目やみ地蔵に奉納されている絵馬もつくられています。
 絵馬屋さんを出発し少し先にある槍かけだんごが最初のおやつポイントです。素材にこだわった餡だんごとたれ団子(みたらし団子)を1本ずつ皆で頂きました。とにかくできたては柔らかくて美味しい。
 皆さんの笑顔が印象的でした。

最初のおやつポイント槍かけだんご
(柔らかくとても美味しい写真は“たれだんご”

江戸時代の雛人形と対面

こちらも商家の佇まい下村家
圧巻の雛人形

 さぁ、少し休憩をしてまち歩きの再開です。大正から昭和初期にかけて普及した和風建築に洋風の応接室が付属された板垣家を通り旧道を荒川方面へ北上します。ほどなく下村家へ到着です。下村家の正面の引き戸を開けると圧巻の雛人形の登場です。
 下村さんも出てきてくださり、話をお聞きしました。飾るのも仕舞うのも大変なんだよ、とおっしゃってましたが、本当にそうだと思います。また雛人形をとても大事にされているのがそのお話しをする笑顔からも感じ取れました。
 人形のお顔を良く見るととても奇麗で柔らかい表情をしていて、本当に貴重なものであることが伝わってきました。


骨つぎの代名詞であった名倉家へ

名倉医院の長屋門を入る
診察室として使用された屋敷。奥には庭園。

 下村家を失礼し、名倉家へ向かいます。骨つぎといえば名倉、名倉といえば骨つぎと言われるほど骨つぎの代名詞であった名倉家。今回は特別に長屋門と内部の庭の門を開けて頂き、診療室として使われていた屋敷の外観と昭和初期に大改修された立派な庭園を拝見しました。
 武家屋敷を想起させる長屋門や診察室の設えは徳川将軍の鷹狩りの休息所となることに決まり当時の当主が改修を行ったことによります。


福寿堂。奥様からお土産を頂きました。

 名倉家を出て旧道に戻り南下します。いえまちの“まちヨガ”でお馴染の安養院のかんかん地蔵を見て、路地を通り旧道へ戻ります。
 2軒目のおやつ・お土産ポイントの福寿堂に到着です。浅草福寿堂から暖簾分けで千住に店を構えられ、お店の内部で甘味を頂く事もできるスタイルもあいまって昭和の雰囲気感がなんともいえません。お店を切り盛りされているご夫妻に一人づつお土産を手渡しで頂きました。 お土産の中身は桃の節句にちなんで桜餅、そして赤飯のおにぎりとお稲荷さんです。お土産の打ち合わせは奥様と相談させて頂き決めました。
 お店の商品は全て店内で手作りです。とても美味しかったです。


路地から見る中川園の蔵
千住街の駅

 旧道をさらに南下し狭い路地を入り、中川園の蔵を見ました。こちらも立派な土蔵造りです。千住に見られる蔵の特徴として、旧道に面してはまず店がありその奥に蔵があるので一見存在に気がつきません。参加された方も突然の蔵の光景に驚かれていました。
 旧道にもどり、こちらも立派な出し桁造りの毛糸屋さん「石鍋商店」へ。店内に入り、店主ご夫妻と立ち話。沢山の毛糸の在庫をみて皆さんも感心されていました。外観は見ていても中には入ったことが無い方がほとんどでした。
 その次に向かったのは、まち歩きに役立つマップや足立区の歴史について展示などをしている千住街の駅です。もと鮮魚屋さんであった建物のガラスのショーケースをそのまま展示スペースとして利用しています。路地から奥に入ると、斜めに添えられた木の電柱が見られます。関東大震災の損傷から復旧するためにかけられたもので、震災の傷跡を今に伝えています。


3へ続く

「奇跡の一本松」の朗読を聞く

奈可多“楼にてなかださんの朗読

 旧道を少し戻り、本氷川神社に向かう参道を入ります。途中いえまちメンバーの住まいである舟橋家の前で止まります。昭和初期に建てられた舟橋家は、この地で子供たちをたくさんとりあげた助産院でした。路地に面して休憩できるベンチや、まちのイベントの情報などがディスプレイされています。
 本氷川神社では旧社殿を見ました。周囲に施された精巧で緻密な彫刻は、日光東照宮を手掛けた職人さんによるものと伝えられています。 本氷川神社を出るとまち歩きも最終目的地へと向かいます。
 いえまちメンバーでイラストレータのなかだえりさんのアトリエ「奈可多“楼」に伺いました。1階にスナックが入っていた木造2階建ての建物をリノベーションして2013年からアトリエとして使われています。まち歩きの見学はもちろん、いえまちのミーティングやイベントなどにも使わせて頂いております。
 この日は建物の説明の後に東日本大震災から7年が経過することもあり、なかださんが書かれた絵本「奇跡の一本松」を朗読して頂きました。
 岩手県一関市出身のなかださんが自らの取材を元にして書かれた絵本です。7年たつとメディアなどで取り上げられる頻度も少なくなりますが、本当の復興までの道のりはまだ先で、避難生活をされている方もおられます。そういった事を改めて感じさせてくれる朗読でした。


センジュ出版にて吉満さんにお話しを伺う

 奈可多”楼を出てほぼ向かいのセンジュ出版へ。いよいよゴール地点です。
 センジュ出版のある玉井荘は私達いえまちもレンタルスペース「いえまちの部屋」として活用をしていた思い入れのある場所です。
 この地で空き部屋2部屋をリノベーションして2015年秋より出版社とブックカフェをオープンされました。
 主宰者の吉満さんよりお話しを伺い、まち歩きは無事に終了です。


ご協力くださった皆さまありがとうございました。

 千住のまち並みと旧家の雛飾り。私達スタッフにとってもとても素晴らしい貴重な体験ができました。
 江戸時代の佇まいをご当主から伺い、リノベーションの空間を感じる。今回もいえまちらしいまち歩きができたのではないでしょうか。
 終了後には希望者は残り懇親会を行いました。今回の懇親会の舞台は、まち歩きで伺った奈可多“楼。もとスナックであった1階部分を残しているので懇親会の場にはうってつけです。ビール、サワー、ワインを飲みながら、なかださんのスパイスを使った美味しいお料理いただきました。
 参加者の方の自己紹介から始まり、楽しく、時に激しく賑やかに“スナック奈可多”楼”での懇親会は夜が更けるまで続いたのでした。

 改めまして、横山家での紙雛図の展示にご協力くださった郷土博物館の関係者の皆さまありがとうございました。
 そして福寿堂さん、槍かけだんごさん美味しいお土産をありがとうございました。集合場所としてご協力頂きましたデリコッペさんありがとうございました。
 最後に今回も、大切な建物に入れて頂きお話しをして下さった下村さん、横山さん、名倉さん、吉満さん、なかださんありがとうございました。

(千住いえまち/宮島 亨)